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温泉夜話 前川千帆著「版画浴泉譜」に出会う! [温泉マニア]

 2005年9月、東京神田神保町の三田アート画廊を訪ね、版画家川瀬巳水(かわせ はすい)の原画を探した折に、前川千帆(まえかわ せんぱん)の存在を知った。明治21年生まれの漫画家・版画家で後年、全国の温泉地を描いた作者である。インターネットで浴泉譜シリーズ「版画浴泉譜」「版画續浴泉譜」「版画續續浴泉譜」、さらに戦後それらを本で紹介した「版画浴泉譜」を知った。図書館で探して、本の「版画浴泉譜」は手元に取り寄せることができたが、版画の方は国会図書館にしかないことが判った。
 10月12日、国会図書館に行き、「版画浴泉譜」にようやく出合った。「續浴泉譜」や「續続浴泉譜」は、残念ながらなかった。
 
 昭和16年発刊の「版画浴泉譜」は、木版画摺りの大画集で、七寸×七寸に収めて、全国の温泉場の情景二十景を版画で描き、前川千帆のコメントを添えている。第一集の「版画浴泉譜」は、北から洞爺湖、定山渓、赤湯、遠刈田、青根、松之山、黒薙、日光湯元、川治、梨木、伊香保、法師、四万、戸倉、上諏訪、野沢、別所、伊豆山、土肥、式根島の20ヶ所を収録している。第三集が完成したのは、十数年後という。63年前の版画で幾らか色あせているようだが、有名温泉地の他に、湯治宿のマイナーな温泉地も取り上げていて、昭和中期の温泉事情を垣間見ることができる。ちなみにこの作品は、前川千帆が47歳の時(1941年)の作品で、1961年に72歳でなくなったので、意欲的に製作していた版画の円熟期といえようか。特に第二集は、戦時中の製作で、連日空襲警報のなる中、製作資材に難渋した時代だったと彼は後に語っている。この後、1954年頃まで「朝の浴場」「温泉宿」など、温泉や温泉場にこだわった作品を作り続けている。
 
 それぞれの作品に付けられたコメントがなかなか面白い。「洞爺湖」では「此処で始めてザリガニを教えられる。宿で始めて試食してみた。蝦のやうでもなく蟹のやうでもなく、不味くて食べなかった」私は道産子で、子供のころ川でザリガニを採って、よくストーブの上で焼いて食べたものだった。「遠刈田」では、「蔵王山の山麓にある田舎臭い湯治場・・・一つの共同湯に床屋が寄生している。一つの共同湯にうどんやが同居している。一つの共同湯には、先年の大火以来廃屋になっていて、空きの浴槽の溜まり場で婆さんが洗濯をしている」又、梨木温泉は、今でも静かな一軒宿だが、「部屋部屋の鉄瓶が何百と廊下に並ぶという大所帯の宿。近在の湯治客で賑わう。・・・開墾地に熊が出没するという噂。・・・夏になると1000人に近い客がきたらしい」など時代を映す資料としても貴重な作品である。
 昭和29年に第三集にわたる「版画浴泉譜」大画集を龍泉閣から書籍として発行された。

北海道洞爺湖


法師温泉

四万温泉

浅間温泉

湯涌温泉

城崎温泉

箱入りの立派な装丁で、最初の「洞爺湖」、四万、浅間、湯涌のみがカラーで、後の56ヶ所は単色である。著者は原画を単色にすることで原画と異なった印象になることを心配したが、「単色は単色なリに相当面白く見てもらえる事が判って安心した」とあとがきに語っている。われわれにとっては、書籍によって真近かに手にとって知ることができたわけで、改めて、原画の第二、第三集の発見に夢をつなげて行きたい。(2005.10記に訂正加筆)

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hide-m

toshiさん ご訪問とnice!をありがとうございます。
by hide-m (2007-12-01 13:52) 

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