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温泉を訪ねる文学紀行 下部温泉・古湯坊 源泉館と井伏鱒二 [文学を訪ねる温泉紀行]

温泉を訪ねる文学紀行 下部温泉・古湯坊 源泉館と井伏鱒二
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下部温泉・古湯坊源泉館の井伏鱒二が逗留した部屋の丸窓

 武田信玄の隠し湯で知られ、骨折や胃腸に特効があるといわれる下部温泉へ行った。信玄ゆかりの三古湯の一つ、甲府の積翠寺温泉、西山温泉と並んで下部温泉の名があげられる。古湯坊源泉館の混浴名物岩風呂は昔から旅館の外湯として利用されてきた。裏手にある280段の階段を登る熊野神社には、松葉杖を引いてやってきた湯治客が滞在中に全快し、ご用済みになった松葉杖や義足を奉納して帰ったという。それだけ効能が確かだった。今では交通事故等の後遺症やスキーなどでの骨折など運動器障害でくる湯治客や療養者が多い。漁師が鉄砲玉を足に受けたのが、下部の湯に浸かり浮き出てきたという話もある。
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下部温泉街

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JR身延泉下部温泉駅

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別館神泉(外湯・共同浴場)

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古湯坊源泉館正面

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源泉館のロビー

 源泉32度の単純泉で源泉は3ヶ所ある。共同浴場は、町立温泉会館、別館神泉(源泉閣の岩風呂)の二ヶ所。下部温泉の歴史は古く、景行天皇の時代に汐海足尼(しおみたるに)という人によって発見され、その後戦国時代に武田信玄の隠し湯として傷病兵たちを治療させた。江戸中期創業の老舗、古湯坊源泉館には、万延2年(1861年)の宿帳、安永2年(1773年)の湯銭請取帳、弘化3年(1846年)の湯銭帳、また武田信玄や武田信虎、24将の一人馬場美濃守、穴山梅雪から賜った浴場並びに土地免状などがあり部屋には24将の名が付いている。
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古湯坊源泉館に残る古文書

 別館神泉1階の混浴かくし湯大岩風呂へ行く。男女別更衣室から出ると、第二別館の地下から湧きだした湯を引いた沸かし湯の小さい湯船、階段を下ると足元から湧きだしている15畳ほどの岩風呂がある。床は木造り板が敷かれて、右奥の一角が深い岩風呂。足元から湯が沸いてくるという全国でも珍しい足元湧出温泉だ。ここでは男性は臀部を湯の中でもタオルで隠し、女性は胸から下を隠す湯浴み着を身につけて入浴する。5~6人ほどの入浴客が四方山話に花を咲かせている。32度ほどの冷泉なので、20~30分ほども入浴していないと寒くてあがれない。加温した湯船に入り、これを繰り返す。隣のおじさんは「膝を痛めて、医者に硬直してもうだめだな・・・。といわれたが、ここで1週間湯治して膝が伸びるようになった。それ以来毎年2~3回来ていてもう6年目になる」こうした話は珍しい事ではない。井伏鱒二の著書「下部の湯元」で、「大岩風呂の天然の岩肌に1尺ほどの鉄棒が打ち込まれていた。・・・中番に聞くと“昔、あの棒にもっこを吊るしましたんです”と言った。大怪我をして殆ど砕けてしまった人間をもっこやざるに入れ、うまく鉱泉に浸かるように吊るしたのだそうだ」それほどにこの湯は効能が高かったという。ここでは天然鉱泉水(ナチュラルミネラルウォーター)と源泉を利用した美容液を販売している。館内には無料で鉱泉水を飲むことができる。
 本館5階には、2006年に地下1200mから湧きだした51度の単純泉「しもべ奥の湯」がある。1・5×2・5mの木造造りの湯船で源泉と季節により加温した湯が湯船に注がれている。いくらか硫黄臭があり、無色透明だ。女性用は2階にあり、いずれも24時間営業だ。
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かくし湯大岩風呂(宿のパンフレット).一部の時間を除いて混浴

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本館5階にある「しもべ奥の湯」

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1階ロビーには、無料で鉱泉水が飲める

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和室10畳トイレ付

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お正月なので、お茶請けの他におせち料理が用意されていた

 夕食膳は部屋に運んでくれる。今回の宿泊料金は、お正月料金2名1部屋で@16,000円だった。筋子・煮貝・わかさぎの先付、牛蒡・いんげん・筍などの煮物、鮪・鯛・甘エビなどのお造り、サーモンのホイル巻き、あんきも、海老・茄子・タラの芽の天ぷら、グラタン、蛤汁、卵焼き、宝刀鍋、ご飯、いちご・ぶどう・、みかんのデザート。山の温泉ではあるが、お刺身が美味しい。ご飯はおにぎりにして後でいただいた。
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お部屋で夕食膳をいただいた

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夕食膳の一部・はまぐりとデザート

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岩魚の骨酒・香りがたまらない・・・・

 井伏鱒二が古湯坊源泉館に逗留して描いた作品「雨河内川」を読んでみた。「文学界」に掲載された釣り談義の話が気に食わないと気にしたり、源泉館の混浴大岩風呂でのお客の口げんかの様子を書いている。井伏鱒二の釣りの師匠としていた下部温泉街にある理髪店「やまめ床」の先代依田喜史さんとの交流ぶりが作品に現れている。井伏鱒二が泊まった部屋・本館三階(斜面にたつ増築の為、実際は五階)の部屋を見せていただいた。和室10畳の南側に縁側と洗面所があり、丸窓には鳳凰?をかたどったステンドグラスがある。床の間には、井伏鱒二の写真が飾られている。執筆しながらときどき窓外の下部温泉街を見下ろしていたのだろう。昭和48年(1973年)75歳の井伏は、源泉館を最後に訪れている。
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井伏鱒二が逗留した部屋

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鱒二の写真が飾られる

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縁側から見た温泉街

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丸窓のステンドグラス

 宿から歩いてすぐにある理容店「やまめ床」を訪ねた。名つけ親の井伏鱒二とこの床屋の親父さん依田喜史(よしふみ)氏(大正2年生)との川釣りを通しての交流が続いた。鱒二は昭和4年(1929年)、31歳の時養生を目的に初めて下部温泉を訪ねた。当初守田屋に泊まって共同湯の源泉館に入浴に行っていたが、後に源泉館に宿を替え、その後もたびたび源泉館を訪れ釣りを楽しんだ。依田は井伏のヤマメ釣りの師匠と呼ばれていた。長逗留しては、依田に髪を刈ってもらい釣り談義に花を咲かせた。私もそれに見習って、「やまめ床」で息子の依田啓史(ひろし)氏に髪を切っていただきながら、喜史氏と井伏鱒二のことを語っていただいた。喜史氏は18歳で甲府の理容学校を出て、この床屋に戻ってきたのは21歳から。父(58歳)と母(50歳)、姉と仕事をした。休日には父は川釣りへ、鱒二に誘われればいつでも同伴して行ったという。当時床屋は4軒あり決して暮らしぶりは良くはなかったという。「昭和40~50年のころ下部を訪れる観光客が47万人をこえて最盛期だった。床屋のお客も観光客が50%だった。今は湯治・観光客はわずかに5%くらいかな」という。啓史氏は、昭和50年頃「川釣り」という一冊の本が知り合いから父宛に送られてきて以来、下部の地を描いた作品で「井伏鱒二作品展」をやりたいという思いが募り、2006年に甲斐黄金村・湯之奥金山博物館で、第10回特別展「つり人・井伏鱒二~しもべを愛した文学者~」を実現させた。下部とかかわりのある作品群を調べ、「富士川支流」「飯田龍太の釣り」「川で会った人たち」「余談」「阿佐ヶ谷の釣り具屋」「樟脳の粉」など多くの作品の名簿と井伏鱒二・依田喜史の年表を作り上げた。
啓史氏は昭和25年生で私と同年で、ついそれぞれの生き方や子供たちの話に花を咲かせた。
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「やまめ床」の二代目依田啓史氏

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昭和40年頃の依田喜史ご夫妻の写真

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俳人飯田龍太氏と井伏鱒二の写真(昭和40年5月頃)

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シラネアオイ

こんにちは!nice!&ご来訪ありがとうございます。
by シラネアオイ (2011-01-08 11:05) 

ぴーすけ君

ステンドグラスの絵、いいですね~。
by ぴーすけ君 (2011-01-08 17:00) 

えんや

よろしくお願いいたします。
by えんや (2011-01-08 20:47) 

りりー

こんばんは!^^☆
訪問頂きありがとうございます!
素敵なステンドグラスですね
by りりー (2011-01-08 21:20) 

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